顕微鏡的多発血管炎に関する和訳の準備
顕微鏡的多発血管炎の和文原稿を題材としてイートモ実戦応用例を作成する前に、一般向けの英文サイトと和文サイトを調査して、事前におおまかな知識を得ておきます。
まず、以下の英文サイトを和訳し、イートモ用に対訳化します。
https://www.hopkinsvasculitis.org/types-vasculitis/microscopic-polyangiitis/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2917831/
上記英文サイトの和訳に際しては、上記英文サイトに対応する日本語サイトを探して、その中から適訳を探し出します。英和辞書や医学用語辞典は訳語の確認に利用する程度です。
以下の日本語サイトを熟読して、専門的な表現等を取り入れます。
和訳に役立ちそうな部分を赤字します。
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顕微鏡的多発血管炎
顕微鏡的多発血管炎とは
血管に対して異常な自己免疫反応を起こす疾患の一つで、血管炎に分類される疾患です。本疾患は血管のなかでも諸臓器に分布する比較的小型の血管壁(顕微鏡レベルで観察可能な細小動脈や毛細管など)に炎症を起こします。その結果、血栓形成や出血がみられ、特に腎臓や肺、皮膚など血管組織の虚血や壊死をきたし機能不全を招きます。血液検査では全身の炎症(主に下記の主要症状)を反映する所見が見られますが、血管の炎症に関与する抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA) も高率に検出されることが特徴です。高齢者に好発し、やや女性に多いと言われております。
原因
現在のところ明らかな原因はわかっておりません。血液検査において異常な免疫反応を示唆する抗好中球細胞質抗体が高率に検出されることから、膠原病に分類されております。
症状
本疾患は前述のごとく顕微鏡レベルで観察可能な比較的微細な動脈が炎症の主たる場となります。したがって炎症を起こした血管から栄養を受けている臓器障害がみられます。重篤な症状は診断基準にも含まれております。
- 腎症状(蛋白尿、血尿、浮腫、高血圧など)
- 肺症状(咳、息切れ、呼吸困難、血痰など)
- その他の臓器の症状(出血、神経炎など)
発熱、体重減少、全身倦怠感といった全身症状に加え、腎症状(蛋白尿、血尿、高血圧など)、肺症状(咳、呼吸困難、血痰など)、その他消化器症状(腹痛、下血、消化管穿孔など)や脳出血、脳梗塞、心不全、皮疹、関節痛、筋痛、手足のしびれ(多発性単神経炎)を認めることがあります。
治療
ステロイド大量投与と免疫抑制剤を中心に行います。難治例も多数見られるのが現状であり未だ根本的な治療法は確立されておりません。γグロブリン大量療法や血漿交換などの有効性も報告されており当院でも取り入れております。
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顕微鏡的多発血管炎
1. 疾患概念
1994年に米国Chapel Hillで開かれた国際会議において、これまで結節性多発動脈炎と診断されていた症例のうち、中型の筋性動脈に限局した壊死性血管炎のみを結節性多発動脈炎と定義し、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎は別の疾患群として区別されることになった。後者は、血管壁への免疫複合体沈着がほとんどないことと抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)陽性率が高いことを特徴とし、ANCA関連血管炎症候群と定義された。このうち、肉芽腫性病変のみられないものが顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)と定義された。
2. 疫学
男女比はほぼ1:1で、好発年齢は55~74才と高齢者に多い疾患である。年間発症率はドイツでは百万人あたり3人、英国にでは百万人あたり8.4人と報告されている。わが国の難治性血管炎に関する調査研究班の新規発症患者コホートでは、発症時平均年齢71.1歳、男女比は1.2で女性の比率がやや高かった。
3. 病態生理
原因は不明である。アジア系集団では、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*11:01がリスクアリルとする報告がある。好中球細胞質の酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する自己抗体(MPO-ANCA)が高率に検出されることから、背景に自己免疫異常が存在すると考えられる。このANCAが小型血管炎の発症に関わることが判明してきた。過去の研究班コホートでは、78名中97.4%がMPO-ANCA陽性、2.6%がPR3-ANCA陽性、1.3%がANCA陰性であった。最近、好中球細胞死の形態である好中球細胞外トラップ(NETs)の制御異常がANCA関連血管炎の病態形成に関与することが報告されている。
4. 症状
発熱、体重減少、易疲労感、筋痛、関節痛などの全身症状(約70%)とともに、組織の出血や虚血・梗塞による症候が出現する。腎臓では壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり、尿潜血、赤血球円柱と尿蛋白が出現し、血清クレアチニンが上昇する。数週間から数ヶ月で急速に腎不全に移行するため、早期診断、早期治療が極めて重要である。その他、頻度が高い臓器症状は、呼吸器症状(間質性肺炎:約50%、肺胞出血:約10%)、皮膚症状(紫斑、皮膚潰瘍、網状皮斑、皮下結節など:約20%)、神経症状(多発性単神経炎など:約40%)、耳鼻科領域の症状(約10%)などである。間質性肺炎や肺胞出血を併発すると咳、労作時の息切れ、頻呼吸、血痰、喀血、低酸素血症を生じる。結節性多発動脈炎に比べると高血圧の頻度は少ない(約30%)。心症状は約10%にみられるが、消化管病変は他のANCA関連血管炎に比べて少ない。
5. 検査
主要な検査所見は、(6)診断の項の中で述べる。確定診断には組織生検が必要であり、皮膚を含めた生検可能な臓器における早期の病理診断が重要である。毛細血管や細動脈・細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤を認め、血管壁への免疫複合体の沈着はないか乏しい。腎・肺が好発部位である。肉芽腫性病変はみられない。
6. 診断
表1に示す診断基準により、確実(definite)、疑い(probable)と判定する。なお、本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある(http://www.nanbyou.or.jp/entry/86)。
7. 治療
- 可能であれば組織生検により血管炎を証明し、可及的早期に確定診断し、迅速に寛解導入療法を開始することが長期的予後を改善する上で重要である。
- 一旦寛解導入されたら(治療開始から2~5ヶ月以内が多い)、副腎皮質ステロイドを維持量(一般的な目標は6か月後にプレドニゾロン換算10mg/日未満)まで漸減する。寛解導入療法でシクロホスファミドを使用している場合には、他の免疫抑制薬(アザチオプリン、MTX)に変更する。
- 生命の危険を伴う最重症例には、シクロホスファミドに加えて血漿交換療法を併用する。
- 難治例に対する治療薬として、抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブが用いられる。
- 再燃時には寛解導入療法に準じて治療を行う。
- 細菌感染症・日和見感染症対策を十分に行う。
1) 治療指針
① 寛解導入療法
疾患活動性評価、治療強度の選択には、専門的知識と経験が必要であり、顕微鏡的多発血管炎あるいはANCA関連血管炎を疑われた場合には、まず専門医を受診することが最も重要である。
全身型または主要臓器障害を呈する血管炎では,副腎皮質ステロイド(ステロイド)(PSL換算1mg/kg/day)に加えてシクロホスファミドの併用が推奨されている。臓器限局または早期全身型に対する初期治療には,シクロホスファミドまたはメトトレキサート(保険適応外)とステロイドの併用が推奨されている。ただし、臓器障害の程度、患者の合併症や全身状態によっては、免疫抑制薬投与量を減量する場合、ステロイド単独による治療を選択する場合、ステロイド投与量を減量する場合、ステロイドパルス療法を併用する場合もある。ステロイドパルス療法は重症の血管炎,特に急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を呈した際にしばしば用いられる。重篤な腎障害(≧Cr5.8mg/dl)を認める場合や肺胞出血などの生命にかかわる重篤な臓器障害を合併する場合はステロイド+/-シクロホスファミドに加え,血漿交換療法(2週間以内に4Lを7回)を併用する。
シクロホスファミドは連日経口投与が標準的に用いられてきたが、現在では間歇的点滴静注療法が同等な有効性を持つことが示されており、経口投与に代わって広く用いられている。また、寛解導入療法に用いる免疫抑制薬としてシクロホスファミド、メトトレキサートのほかに、リツキシマブ(RIT)、ミコフェノール酸モフェチル(保険適応外)の有効性が報告されている。
② 寛解維持療法
寛解達成後にそれを維持することがAAV患者の長期予後改善につながる。寛解導入療法にステロイド+免疫抑制薬を用いて寛解を達成した場合には、寛解維持療法としてステロイド+アザチオプリンまたはステロイド+メトトレキサート(保険適応外)を用い、ステロイドを漸減する。寛解導入をステロイド単独で行った場合には、そのままステロイドを漸減する。ステロイド減量中に疾患活動性の上昇を認めた場合には、免疫抑制薬の変更・追加、あるいは、ステロイドの再増量にて対処する。ステロイドの副作用を最小限にするためには速やかな減量が望ましいが、早い減量は再燃のリスク因子であることも知られている。
2) 合併症の予防と治療
感染症の予防、ステロイドの副作用の評価と対応が特に重要である。強力な免疫抑制治療中は、バクタ、抗真菌薬の予防投与を行う。体重管理、糖尿病、高脂血症、骨粗鬆症、白内障、緑内障等のフォローを確実に行い、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンは可能な限り接種する。規則正しい食事、適切なカロリー摂取、カルシウム摂取を指導し、生活習慣病の発症を予防する。
8. 予後
適切な治療が行われないと生命予後が不良となる。出来るだけ早期に診断し、適切な寛解導入療法を行えば、8割以上は寛解する。治療開始の遅れ、あるいは初期治療への反応性不良により、臓器の機能障害が残存する場合がある。腎不全を呈する患者では透析療法が必要となる。また、再燃することがあるので、定期的に専門医の診察を受ける必要がある。過去の研究班コホートにおけるMPAの再燃率は約30%である。
表1.顕微鏡的多発血管炎 診断基準
(1)主要症候
【主要項目】
① 急速進行性糸球体腎炎
② 肺出血,もしくは間質性肺炎
③ 腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など
(2)主要組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤
(3)主要検査所見
① MPO-ANCA 陽性
② CRP 陽性
③ 蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン値の上昇
④ 胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性肺炎
(4)判定
① 確実(definite)
- 主要症候の2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例
- 主要症候の①及び②を含め2項目以上を満たし,MPO-ANCAが陽性の例
② 疑い(probable)
- 主要症候の3項目を満たす例
- 主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例
(5)鑑別診断
① 結節性多発動脈炎
② 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症 )
③ 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)
④ 川崎動脈炎
⑤ 膠原病(SLE,RAなど)
⑥ IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎 )
【参考事項】
- 主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
- 主要症候①,②は約半数例で同時に,その他の例ではいずれか一方が先行する。
- 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。
- 治療を早期に中止すると,再発する例がある。
- 除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。
重症度分類
顕微鏡的多発血管炎の重症度分類で、3度以上が難病の対象となる。
1度:
ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。
2度:
ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とし、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。
3度:
機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障をきたしている患者。臓器病変の程度は注1の1~8の何れかを認める。
4度:
臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2の1~7の何れかを認める。
5度:
重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障をきたしている患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3の1~8の何れかを認める。
注1:以下のいずれかを認めること
- 肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、Pa02が60~70Torr。
- NYHA 2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上認める。
- 血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dlの腎不全。
- 両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。
- 拇指を含む2関節以上の指・趾切断。
- 末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。
- 脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力4)。
- 血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。
注2:以下のいずれかを認めること
- 肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。
- NYHA 3度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、の何れかを認める。
- 両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。
- 1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。
- 末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。
- 脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。
- 血管炎による両眼的下血、嘔吐を認める。
注3:以下のいずれかを認めること
- 肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。
- NYHA 4度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2以上を認める。
- 血清クレアチニン値が8.0mg/dlの腎不全。
- 両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。
- 2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。
- 末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。
- 脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。
- 血管炎による消化管切除術を施行。
※なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。
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1.概要
1994年にChapel Hillで開かれた国際会議において、これまで結節性多発動脈炎(periarteritis nodosa:PAN)と診断されていた症例のうち、中型の筋性動脈に限局した壊死性血管炎のみが結節性多発動脈炎と定義され、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎は別の疾患群として区別された。後者は、血管壁への免疫複合体沈着がほとんどみられないことと抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)陽性率が高いことを特徴とし、ANCA関連血管炎症候群と定義された。このうち、肉芽腫性病変のみられないものが顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)と定義され、多発血管炎性肉芽腫症や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症と区別される。男女比はほぼ1:1で、好発年齢は55~74歳と高齢者に多い。年間発症率はドイツにおける3人/百万人から英国における8.4人/百万人と報告されている。
2.原因
原因はいまだに不明である。しかし、好中球の細胞質に含まれる酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する自己抗体(MPO-ANCA)が高率に検出されることから、他の膠原病と同様に自己免疫異常が背景に存在すると考えられており、このANCAが小型血管の炎症に関わることが分かってきた。
3.症状
発熱、体重減少、易疲労などの全身症状(約70%)とともに、組織の出血や虚血・梗塞による徴候が出現する。壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり、尿潜血、赤血球円柱と尿蛋白が出現し、血清クレアチニンが上昇する。数週間から数か月で急速に腎不全に移行することが多いので、早期診断が極めて重要である。結節性多発動脈炎に比べると高血圧は少ない(約30%)。その他高頻度にみられるのは、皮疹(約60%:紫斑、皮膚潰瘍、網状皮斑、皮下結節)、多発性単神経炎(約60%)、関節痛(約50%)、筋痛(約50%)などである。肺毛細血管炎によると考えられている間質性肺炎(約25%)や肺胞出血(約10%)を併発すると咳、労作時息切れ、頻呼吸、血痰、喀血、低酸素血症を来す。心筋病変による心不全は約18%にみられるが、消化管病変は約20%と他のANCA関連血管炎に比べて少ない。
4.治療法
(1)可能であれば組織生検により血管炎を証明し、可及的早期に確定診断し、迅速に寛解導入療法を開始することが長期的予後を改善する上で重要である。
(2)一旦寛解導入されたら(治療開始から3~6か月以内が多い)、副腎皮質ステロイドを維持量まで漸減する。寛解導入療法でシクロホスファミドを使用している場合には、他の免疫抑制薬(アザチオプリン、MTX)に変更する。
(3)生命の危険を伴う最重症例には、シクロホスファミドに加えて血漿交換療法を併用する。
(4)難治例に対する治療薬として、抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブが用いられる。
(5)再燃時には寛解導入療法に準じて治療を行う。
(6)細菌感染症・日和見感染症対策を十分に行う。
5.予後
治療が行われないと生命に危険が及ぶ。できる限り早期に診断し、適切な寛解導入療法を行えば、大部分は寛解する。治療開始の遅れ、あるいは初期治療への反応性不良により、臓器の機能障害が残存する場合がある。腎不全を呈する患者では血液透析が必要となる。また、再燃することがあるので、定期的に専門医の診察を受ける必要がある。
○ 要件の判定に必要な事項
1.患者数(平成24年度医療受給者証保持者数)
9,610人(結節性多発動脈炎との合計)
2.発病の機構
不明(自己免疫異常の関与が示唆される。)
3.効果的な治療方法
未確立(根治的治療なし。)
4.長期の療養
必要(再燃、寛解を繰り返し慢性の経過となる。)
5.診断基準
あり
6.重症度分類
結節性多発動脈炎の重症度分類を用いて、3度以上を対象とする。
○ 情報提供元
難治性疾患等政策研究事業「難治性血管炎に関する調査研究班」
研究代表者 杏林大学第一内科学教室 腎臓・リウマチ膠原病内科 有村義宏
<診断基準>
Definite、Probableを対象とする。
【主要項目】
(1)主要症候
①急速進行性糸球体腎炎
②肺出血又は間質性肺炎
③腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
(2)主要組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
(3)主要検査所見
①MPO-ANCA 陽性
②CRP 陽性
③蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇
④胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎
(4)診断のカテゴリー
①Definite
(a)主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性の例
(b)主要症候の①及び②を含め2項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例
②Probable
(a)主要症候の3項目を満たす例
(b)主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例
(5) 鑑別診断
①結節性多発動脈炎
②多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
③好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)
④川崎動脈炎
⑤膠原病(全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など)
⑥IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)
【参考事項】
(1)主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
(2)主要症候①、②は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。
(3)多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。
(4)治療を早期に中止すると、再発する例がある。
(5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。
<重症度分類>
顕微鏡的多発血管炎の重症度分類を用いて、3度以上を対象とする。
1度 |
ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変及び合併症を認めず日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい。)。 |
2度 |
ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とし、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。 |
3度 |
機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院又は入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。 |
4度 |
臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。 |
5度 |
重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障をきたしている患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。 |
注1:以下のいずれかを認めること
a.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、Pa02が60~70Torr。
b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいは
ST低下(0.2mV以上)の1つ以上認める。
c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。
d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。
e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。
f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。
g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力4)。
h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。
注2:以下のいずれかを認めること
a.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。
b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。
c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。
d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。
e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。
f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。
g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。
h.血管炎による両眼的下血、嘔吐を認める。
注3:以下のいずれかを認めること
a.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。
b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれか2以上を認める。
c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。
d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。
e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。
f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。
g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。
h.血管炎による消化管切除術を施行。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
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概要
顕微鏡的多発血管炎は、その名前の通り、顕微鏡でないと観察できない太さの血管(小型血管)に炎症を起こす病気です。そのような血管は全身にありますが、特に腎臓や肺、皮膚、末梢神経等に分布しています。これらの血管に炎症を起こすと、臓器の血流の悪化や炎症の結果起きるダメージや出血が生じ、臓器の機能が低下してしまいます。特に、腎臓や肺などは生命を司る上で重要な臓器であるため、重症となりうる病気です。一般的に50~60歳以上の高齢者に多く発症し、女性にやや多いと言われています。この病気の原因は不明ですが、好中球(白血球の一つ)の細胞質に含まれる酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する自己抗体(抗好中球細胞質抗体;ANCA)が高率に検出されることから、自己免疫異常が背景に存在すると考えられています。この抗好中球細胞質抗体が小型血管の炎症に関わることが分かっています。さらに最近、好中球が細菌を死滅させるために放出するneutrophil extracellular traps(NETs)や、好中球などから放出される小さな粒子microparticlesが病気に関連していることが明らかにされています。
症状
全身症状に伴い、腎臓や肺の障害が短期間に急激に進行する場合が多くみられます。また、それだけでなく、緩徐に進行する間質性肺炎など、慢性に経過する場合もあります。
(1)全身症状
発熱、倦怠感、体重減少など。
(2)腎臓の障害によるもの
血尿、蛋白尿、赤血球円柱などの尿検査異常、足の浮腫みなど腎機能が低下することによっておきる症状。これが比較的急速に月単位あるいは週単位で進行することがあります(急速進行性糸球体腎炎)。
(3)肺の障害によるもの
空咳、息切れ。痰に血が混じる場合には肺胞出血という重篤な症状の可能性があります。検査ではレントゲンやCT検査(図1参照)で間質性肺炎や肺胞出血などの異常を指摘されることもあります。

図1.顕微鏡的多発血管炎のCT検査画像
(4)筋・骨格の障害によるもの
関節痛、筋痛。
(5)皮膚の障害によるもの
あざ(紫斑)、皮下出血、皮膚にできる潰瘍など。
(6)神経の障害によるもの
手足のしびれや感覚がない、力が入らないなどの症状(多発性単神経炎)。
診断
本症は生命に関わりうる重症な疾患ですので、強力な治療が必要となります。このため血管炎があることをきちんと証明する必要があり、症状や異常がみられる臓器や部位の一部を生検し、顕微鏡で確認する病理組織診断が必要です。頻度が多いのは腎臓ですが、腎生検が困難な場合は、病変がみられる皮膚や神経、筋、肺などが生検の対象となることもあります。
また上記の病理組織診断だけでなく血清中の抗体である抗好中球細胞質抗体が診断の一助になることがあります。抗好中球細胞質抗体の測定法はいくつかありますが、染色パターンからは、核周辺が強く染色される核周囲型(p-ANCA)と細胞質全体が染色される細胞質型(c-ANCA)に分類されます。またELISA法による抗原特異性からはMPO-ANCAやPR3-ANCAに分類されます。顕微鏡的多発血管炎では、p-ANCAの感度は58%、特異度は81%であり、MPO- ANCAの感度は58%、特異度は91%と言われています。両者のいずれかが陽性の場合、その感度は67%、特異度は99%に上昇します。
上記のように、病理組織診断や血清学的診断を含めた顕微鏡的多発血管炎の診断基準(1998年作成)があり、これを参考に診断します。
1998年厚生省MPA診断基準
(1)主要症候
- 急速進行性糸球体腎炎
- 肺胞出血もしくは間質性肺炎
- 腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
(2)主要組織所見
- 細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
(3)主要検査所見
- MPO-ANCA陽性
- CRP陽性
- 蛋白尿・血尿、血清BUN、Crの上昇
- 胸部レントゲンにて肺胞出血を疑う浸潤影や間質性肺炎像
(4)判定
- 確実(definite)
- 主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性
- 主要症候の(a)及び(b)を含め2項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性
- 疑い(possible)
- 主要症候の3項目を満たす
- 主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例
参考事項
- 主要症状の出現する1-2週間前に先行感染(多くは上気道感染)がみられる例が多い
- 主要症状(a)、(b)は約半数例で同時に、その他ではいずれか一方が先行する
- 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と並行して変動する
- 治療を早期に中止すると、再発する例がある
- 鑑別すべき諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる
鑑別すべき疾患
結節性多発動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧称:Wegener肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/Churg-Strauss症候群)、川崎動脈炎、IgA血管炎(旧名Henoch-Schönlein紫斑病。紫斑、皮下出血、腹痛、関節痛、IgAの沈着を伴う血管炎)、他の膠原病(抗GBM抗体病、クリオグロブリン血管炎、白血球破砕性血管炎、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、悪性関節リウマチ、皮膚筋炎、強皮症、Sjögren症候群、MCTDなど)
治療
血管炎の重症度に応じて、ステロイド薬や免疫抑制薬を用いて、血管の炎症を完全に消失させる寛解導入療法を行い、その後、その状態を維持する寛解維持療法を行うことになります。病気が再び悪くなることのないようにするためにもこれらの治療は重要となります。例えば、生命に危険が及ぶ可能性のある場合には、大量の副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬シクロホスファミド(商品名:エンドキサン®)などの投与が必要となります。また、重症例や難治例についてはシクロホスファミドの代わりにリツキシマブ(商品名:リツキサン®)という生物学的製剤を使用することも可能になりました。診断後速やかに治療が開始され、症状が改善すれば約3~6か月で寛解に至ることが期待できます。寛解に至った場合、ステロイドを減量し、より副作用の弱い免疫抑制薬(アザチオプリン:商品名:イムラン®、商品名:アザニン®)に切り替えた維持療法を少なくとも1~2年間は継続します。ステロイド薬と免疫抑制薬による治療により感染症がおこりやすくなりますので、治療を成功させるためには感染症の予防と適切な治療が大切です。
生活上の注意
治療によって免疫が抑制されると、細菌やウイルスなどの感染症への抵抗力が低下し重篤な感染症に罹患する可能性があったり、感染症にかかると血管炎の病状を悪化させることもあったりするため、注意が必要です。また、ステロイドの副作用として高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病が悪化することがあるため、規則正しい生活を心掛けることが重要です。顕微鏡的多発血管炎は再度病気の勢いが悪くなる(再燃する)ことがしばしば見られる病気なので、定期的に通院して専門医から診察を受けることと、治療中に異変を感じたら速やかに病院を受診するようにしてください。
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