医学知識ゼロでもチャンスはある?
メディカル英訳の極意に書いたように、和文原稿の内容を理解するのは医薬のバックグラウンドがある人のほうが有利ですが、英訳するのに必要な分だけ理解すればいいわけであって、医薬の専門家になる必要はないのです。
事実、私なんか偉そうなことを書いていますが、製薬会社に入るまでは医薬のことは全くわからず、「肝炎」と聞いても何それって感じでした。当時は「非A非B型肝炎」が問題になっていましたが、日本語なのか何語なのかちんぷんかんぷん。当然、英語名のhepatitisなんて知らないわけです。
製薬会社勤務の5年間のうち、最初の1年間は会社の仕事をおぼえるのに使いましたが、医学翻訳で独立すると決めてからは、残りの4年間をその準備に使いました。準備に使うと言っても、製薬会社での業務が医学翻訳に関連することだったので、製薬会社の業務を通じて自然に医学用語・表現に慣れていきました。
40年前は医学翻訳のための資料はほぼ皆無でしたし、医学知識ゼロの私でも4年間で医学翻訳で金を稼げるまでなったのですから、いろいろな資料やツールがそろっている現在、勉強の方向性と量が間違っていなければ、医学翻訳のプロになれる可能性はあります。
「ひなちゃん」は寝るのが仕事。
【追記】
ところが、勉強の方向性と量が間違っている人が多いようだ。
勉強用に加工された甘々テキストでいくら勉強しても限界突破は到底無理だ。翻訳スクールを受講してもいいけど、授業のペースに合わせないで、テキスト勉強なんて独自に1週間程度で終わらせちゃえ。基本がだいたいわかったら、早速、イートモ等を利用しながら現場の文書にアタックだ。
受験勉強のクセなのか、専門用語集などを作って勉強した気になっている人がいるかもしれんが、そんなの時間の無駄だ。専門用語は現場の文書と格闘していく中でおぼえていくものだ。専門用語は市販のものを使えばいいし、実際の仕事ではクライアントから用語集が提供されることが多い。最近の状況は知らんが、まともな翻訳会社だったら、独自に専門用語メモリを作って契約翻訳者に配布しているんじゃないかな。
それと、NEJMのアブストラクト対訳を模範訳・お手本として収集している人がいるかもしれんが、NEJMのアブストラクトを自分で和訳し、ついでに本体も和訳しないと実力はつかない。そもそも、NEJMは最先端の臨床文献だから内容が難しい。翻訳依頼されることも少ない。実際に翻訳依頼されることが多い文書を題材することを勧める。現場の文書と格闘していく中で養われた翻訳力でNEJMのアブストラクト対訳を修正できるくらいになりたいところだ。
「量」に関しては、翻訳スクールの授業時間なんてトータルすれば1日分(24時間)か2日分(48時間)。そんなんでプロになれるわけがない。演習量が圧倒的に足りない。資料やツールが充実している現在でも、現在活躍中のプロ医学翻訳者の中に食い込むには、1日8~10時間を毎日がんばって、2~3年はかかると覚悟したほうがいい。
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